「育休を取ると給付金は給与の67%もらえる。」 この説明はよく目にします。
しかし、実際に育休を考え始めると、
といった疑問が出てきます。
ネット上には便利なシミュレーターもありますが、多くは一つの年収を入力して結果を見る形式です。自分のケースを知るには便利ですが、一方で、
といった制度全体の特徴は見えてきません。
そこで今回は、年収100万円〜1,500万円までを一括でシミュレーションしました。
「一人分の結果」ではなく、「制度全体」を可視化すると、面白い特徴が見えてきました。
本記事の前提
本記事では次の条件で試算しています。
まず結論
今回のシミュレーションから分かったことは3つです。
では順番に見ていきます。
給付金から何が引かれ、どれくらいの手取りになるか
育児給付金は「標準報酬月額の67%、50%」と説明されます。
しかし家計にとって重要なのは、月ごとの
「手取りがいくらになるのか」です。
年収600万円を例に見てみます。
※簡単のため、標準報酬月額は年収を14.7ヵ月(ボーナス2.7ヵ月と仮定)で割った値(つまりおおよそ月給)として計算しています。

通常時は
- 社会保険料、所得税、住民税 が引かれます。
月給40.8万円に対して、手取りは31.4万円程度となるイメージです。
育休中は
- 育児休業給付金は非課税
- 社会保険料は免除
- 給与がなければ所得税は発生しない
- 住民税は前年所得に基づき計算され、育休中も支払いが続く
となります。
育休180日までは給付金が、月給40.8万円の67%で27.4万円程度支給されます。
そこから前年所得に基づく住民税2.1万円が引かれ、手取りは25.2万円程度となります。
育休180日までは給付率が67%ですが、社会保険料や所得税が引かれないため、
手取りは通常時の約80%
になります。
同様に、育休180日以降は給付率が50%では、
手取りは通常時の約58%になります。
年収700万円付近から手取りが減っていく
では年収が変わるとどうなるでしょうか。

折れ線グラフを見ると、
年収700万円程度までは育休中の手取りもほぼ比例して増加します。
ところが、年収700万円を超えた辺りから手取り額は徐々に減少していきます。
理由はシンプルです。
育児休業給付金には上限額がありますが、住民税は前年所得に応じて増えるためです。
令和7年8月〜令和8年7月時点での給付金は
- 180日まで:約32.4万円/月
- 180日以降:約24.2万円/月
が上限です。
一方で、住民税は前年所得を基に課税されるため、
高所得者ほど育休中の住民税も高額 となります。
その結果、
年収が高くなるほど、手取りは低下していき、通常時とのギャップが大きくなります。
この違いを可視化したのが次の図です。

年収700万円程度までは、育休180日まで概ね通常時の80%前後の手取りを維持できます。この辺りまでは社会保険料率の差や税額の変動により数ポイントの幅(概ね78〜82%程度)で推移します。
しかし、
年収700万円を超え、給付金上限に達する層では、育休中の手取りの割合が徐々に低下します。
制度としては「67%給付」でも、年収によって実際の手取りが大きく異なることが分かりました。
世帯年収が同じでも、手取りは同じではない
ここが最も意外だった結果です。

横軸、縦軸を夫婦それぞれの年収とし、育休中の世帯手取り(月額)をマトリクスに表示し色で表現しました。
この図を見ると、世帯年収だけでは育休中の手取りは決まらない ことが分かります。
例えば、世帯年収1,400万円を例に見てみましょう。(図中の黒文字が世帯年収1,400万円)
夫婦とも700万円の場合(月額58万円)と、1,100万円・300万円の場合(月額39万円)では、
世帯の手取り月額に約19万円もの差が生じます。
これは、給付金上限も住民税も、世帯年収ではなく個人年収ベースで決まるからです。
ここからわかるのは、一方に年収が偏っているほど、
給付金の頭打ちだけでなく、高額な住民税により世帯手取りが激減するということです。
「世帯年収が同じなら手取りも同程度かな」と当初は思っていましたが、大きな差がありました。
この分析結果からどう行動するか?
今回の分析は、制度を知ること自体が目的ではありません。
制度を踏まえて、どのような準備をすべきかを考えるのが目的です。
① 育休「取得前」からしっかり準備する
育休中に支払う住民税は、前年所得がベースです。これを正しく把握し、その支払いの準備をしておかないと最悪のケースでは手元資金がショートします。
また、育休前から所得控除の制度を理解し整理しておけば、育休中の住民税負担を軽減できる可能性があります。
出産前後の医療費控除などは、所得の高い時期(育休前)の税負担を軽減させるよう戦略的に申告することで、結果として育休中に支払う住民税を数万円単位で抑えることも可能です。
ふるさと納税を活用しておくのも一つの方法です。ふるさと納税は、自己負担2,000円で返礼品を受け取れるため、家計負担を実質的に軽減できる制度です。また、翌年度の住民税から控除されるため、育休中に支払う住民税負担を抑える効果も期待できます。
② 「どちらがどれくらい育休を取得するか」を家計の面から考えてみる
夫婦の年収配分で手取りが変わることはヒートマップで示した通りです。
育休の取得期間は、子どもと過ごす時間やキャリアなど様々な要素を踏まえて決めるものですが、家計への影響もその判断材料の一つです。
「夫婦それぞれが何か月育休を取得した場合、世帯の手取りはどう変わるのか」を実際の年収に当てはめて試算しておくことで、納得感のある育休計画を立てやすくなります。
③ 短期の損得と長期のキャリアは切り分けて考える
今回の結果だけを見ると、「年収700万円程度が最も有利なのでは」と感じるかもしれません。しかし、これはあくまで育休期間という短期の家計を見た場合の結果です。
長期的には、収入を伸ばせる人がさらに収入を伸ばし、その収入を資産形成に回せば、育休中の一時的な手取り減少をカバーできる可能性は十分にあります。
制度に合わせて働き方を変えるのではなく、制度の特徴を理解したうえで、必要な備えをして育休を迎えることが重要だと感じました。
まとめ
「育休給付金は67%」という説明は間違いではありません。しかし、家計にとって重要なのは、手取りがいくらになるかです。
今回、年収100万円から1,500万円までを一括でシミュレーションした結果、
が分かりました。
単発のシミュレーターを回していては見えない制度の特徴も、全体を可視化することで初めて見えてきます。この記事が、育休取得予定の方の家計を考えるきっかけになったり、夫婦で今後の働き方を話し合う材料になれば幸いです。
(本記事の分析は Power Query とPower BIを用いて作成しました。)



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